within reachの美意識に学ぶ。


(小さな料理宿『ゆりむん』)


よくよく考えてみると、男の二人旅というのは人生で初です。
うっちーに『奄美行こうよ』と誘われたときは『明日渋谷で打ち合わせね』のごとく何の違和感もありませんでしたが、いざ二人でレンタカーとかに乗ってものすごくきれいなビーチとかに来ると「おや?」と不思議に感じるわけです。
彼ももともと僕と奄美に行きたかったわけではなく(笑)、僕がたまたま彼の仕事についてきたってのが本当。(僕はストレートですという弁解です)

まぁでも移動中は二人でずっと喋ってました。よくも飽きずにあんなに喋ったなぁと思うくらい喋り倒しました。
ああいう時間はいい。議題もなければ、決めなきゃいけないこともない。時間は限られているのだけどそう感じないし、好き勝手に脱線できる。むしろ脱線は心地よい。未来の話もあれば、過去の体験に基づく話もあって、自分の心に残ったことだけが必要なことという割り切りもできる。

信号がない場所で、車に乗って同じ方向を目指しながら会話する、というのは何らかの効果があるかもね、と二人で話してました。景色が一定のスピードで流れていくと思考が縛られないし、点が定められない。
サンテグジュペリ先生の『愛は向き合うことではない。同じ方向を見つめることだ』というのは本当かもしれません。

あぁ、うっちーの話ばっかりだ…。笑
そうじゃなくて奄美です。

この日は彼の仕事でお世話になっている関係者の皆様にご挨拶する日。僕はまったく関係ありませんが、島人と触れ合う絶好の機会ですし、同行させていただく。しかも、2時まで飲んでたのに7時半に出発とか…。

観光協会の方や、レストランの方、ペンションのオーナーご夫妻、いろいろな方が島の観光(島の経済)を支えているのだなと感じるいい機会。

とくに横浜と広島から移住したペンションオーナーご夫妻との会話はとても面白かった。

『ゆりむん』(寄りもの、漂着物という意)という小さな料理宿(客室3室と本当に小さくてかわいい)を経営されていて、元は島でレストランをやっていた方らしい。奥様と話していると本当にほんわかする。
東京者からすると『お客さん呼ばないとビジネスが成り立たないんじゃないか』なんて心配をしちゃうわけです。集客のためにDM打った方がいいんじゃないかとか、前に来たお客さんにはがき書いてみたらどうかとか、宿の予約をシステム化したほうがいいんじゃないかとか。
でも奥様は『うーん、なんていうかね、広告の話やシステムの話やいろんな話しをもらうんですが、どうも顔が見えないなーっていうのがあって、自分たちの手の届くところを一生懸命やればいいのかなーって思って』なんてことをおっしゃる。

なんだろう、美意識がしっかりとあるんですよね。

宿の口コミサイトとかに登録すれば集客のメリットがあることはもちろんわかってる。お客さんが集まれば宿が儲かることもわかってる。でもそこに表示される品のない広告だったり、口コミの返信に追われる感覚だったり、顔の見えない匿名性だったりがしっくりこない。しっくりこないならやめておこうか、という感覚。
うっちーがこれを『Within Reach』と名付けたのだけど、この距離感が、手作り感とか手触り感を支えている。

金銭・経済オリエンテッドじゃない。自分の届く範囲の価値や美しさが一番優先されている。消費者も目が肥えてるからこういうところはもうすぐにわかっちゃうんだと思う。自分たちが手の届く範囲に入った瞬間に気づくんだろうね。だから強烈なファンが付く。人は大切にされるところに戻る。勉強になります。

この日は他にもいたるところで金言に満ち溢れていた。

そして、最後の最後、二人で黒糖焼酎を飲み交わしていたときに何かが降りた瞬間があった。


何かがはじまる気配に満ち溢れた奄美2日目の夜だった。


忘れてたけど、翌日は10kmマラソン、みたいな。